
2024年に起きたJAL機の機体が炎上した衝突事故を受けて、航空機の主要構造材として使用されているCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の安全性に注目が集まっています。CFRPは200度前後で強度が低下するため、アルミニウム(融点600度)や鉄(融点1500度)と比べて熱に弱いのではないかという懸念の声もあります。
しかし、実際にはCFRPは形状を保ったまま緩やかに燃焼する特性を持ち、事故後の検証で、その素材の特性が生かされた可能性を指摘する人もいます。
本記事では、CFRPの燃焼特性と安全性について、温度データや実際の事例をもとに解説します。
廃棄・処理における環境面の課題についても触れていくので、CFRPの安全性が気になる方はお読みください。
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CFRPは燃える素材か?

CFRPは炭素繊維と樹脂から構成されており、使用される樹脂が可燃性であるため、条件によっては燃える素材です。ただし、CFRPが燃える際には、樹脂が燃焼する一方で、炭素繊維自体は非常に高い耐熱性を持ち、燃え残ることが特徴です。
この章では、融点と安全性の面からCFRPは燃える素材か確認していきます。
融点で比較
CFRPと他の金属がどのくらいの温度で強度が低下するとされるのか、以下の表にまとめました。
CFRP | 200度前後 |
ジュラルミン | 700度 |
アルミ | 600度 |
鉄 | 1500度 |
上記の表を見ると、他の金属に比べるとCFRPの融点がかなり低いため、燃えやすいように思えます。
しかし、CFRPが他の金属に比べて200℃前後で強度が低下するのは、炭素繊維自体ではなく、樹脂(エポキシ樹脂など)の熱分解温度が原因です。
CFRPを構成する炭素繊維そのものは、非常に高い耐熱性を持ち、約2000℃の環境でも性能を維持します。一方で、マトリックスとして使用されるエポキシ樹脂は熱硬化性であるため、200〜300℃付近で分解が始まり、結果としてCFRP全体の強度が低下します。
この特性から、CFRPが燃えやすいように思えるものの、融点の比較だけでは、実際の使用環境での性能を正確に評価することはできません。
実際の安全性
CFRPを融点で比較すると、一見燃えやすいように思えますが、JAL機の「羽田空港地上衝突事故」を参考にすると、CFRPが燃えやすいとは言いにくいことがわかります。
2024年1月2日、日本航空516便(エアバスA350)が羽田空港で炎上した際に、主翼と胴体に使用されてたのはCFRPでした。
機体が炎上したにもかかわらず、日航機に搭乗していた379人の乗客全員が無事脱出できた要因には、形状を保ったまま燃焼するCFRPの特徴が関係している可能性があります。
脱出のためには火災が起きても機体の形状をある程度保つことが重要なため、今回の例をみるとCFRPは安全性を保つ役割は果たしているように見えます。
むしろ、燃焼時に形状を保持する特性は、避難時間の確保という観点で優位性があると言えるでしょう。
CFRPが安全な素材と言える理由
CFRPは、その軽量性と高強度を兼ね備えた特性から、多岐にわたる分野で利用されています。しかし、それだけではなく、安全性の面でも多くの優れた特性を持つ素材です。
ここでは、CFRPが安全な素材と言える理由を3つ紹介していきます。
- 急激な崩壊が起きにくいから
- 長期使用しても劣化が少ないから
- 振動を吸収しやすいから
急激な崩壊が起きにくいから
CFRPは急激な崩壊が起きにくいことから、避難時間の確保ができるなどの面で安全な素材と言えます。
実際に、CFRPを使用したエアバスA350が炎上した際、379人の乗客全員が無事脱出できたのは、CFRPの燃え尽きにくい特性が影響した可能性があります。
今回の事故で、乗客が脱出を開始したのは火災発生後約6分経過してからで、機長が最後に機を後にするまで約12分間かかっていますが、機内にまで火の手が回ったのはその後だといいます。
この事例から、火災時でも形状を維持し機体が崩壊しないことがわかります。CFRPを使用することで、避難のための時間を確保しやすくなります。
長期使用しても劣化が少ないから

CFRPは、長期間使用しても劣化が少ないため、長期使用に向いている素材と言えます。劣化が少ない要因としては、CFRPの耐候性や耐腐食性、疲労耐性などの特徴があるためです。
耐候性や耐腐食性に優れていることで特に、湿気や化学薬品に対する耐性が高く、これらの要因による劣化が少なくなります。
また、優れた疲労耐性を持ち、繰り返し荷重に対しても耐性があるため、長期的な使用においても構造的な強度を保つことができます。
金属とは違い、金属疲労のような突然の破壊が起きにくいことも安全性を考えるうえで重要なポイントです。
高い耐久性で安定した性能を維持できるCFRPは、安全性が求められる航空機や自動車、風力発電ブレード、などの重要な構造物に幅広く採用されています。
振動を吸収しやすいから

CFRPは振動吸収性に優れている点も、安全な素材と言える理由になります。振動を吸収しやすいことで、衝撃時の安全性が高くなり、構造的な損傷を軽減する働きがあります。
また、航空機や自動車などに使用する場合、乗員への衝撃を緩和できることも特徴の一つです。
さらに、振動吸収性が高いCFRPは、機械や設備の疲労を抑え、寿命を延ばす効果もあります。この特性により、長時間の使用が想定される機械部品や建築物など、過酷な条件下で使用される構造物にも最適です。
CFRPは燃えると有害物質が放出する研究結果もある
ドイツ防衛大学の研究調査によると、CFRPを高温炎上させた場合、発がん性のある有毒物質が排出されることが確認されました。
(引用元:https://cmcre.com/wp-content/uploads/2014/09/20140818carbonfib_2.pdf)
また、ドイツ防衛大学以外にも、ハノーヴァーにあるフラウンホーファー研究所からもCFRPを炎上させると素粒子が飛び散り、呼吸器の粘膜や皮膚を傷つけ、発がん性要因になる確立が非常に高いとの発表もあります。
このような研究結果もあることから、CFRPを使用する際には、製造や廃棄時の安全管理が非常に重要であることが分かります。
CFRPの廃棄・処理方法
CFRPはその特性上、焼却処理が難しい素材であり、現在ではほとんどが埋め立て処理されています。焼却処理には多くの燃料を要し、結果として膨大なエネルギーコストが発生するため、環境への影響が懸念されています。
また、CFRPの廃棄物を適切に処理しない場合、有毒物質の排出や環境汚染を引き起こす可能性がある点にも注意が必要です。
今後は、リサイクル技術の向上や、環境負荷を低減する新たな廃棄・処理方法の確立が重要な課題となっています。
まとめ
この記事ではCFRPは燃える素材なのか、融点や実際の安全性の観点から解説してきました。
融点の観点からは、他の金属と比べると一見燃えやすいように思えますが、実際に炎上したエアバスA350の例を見ると、耐久性が高く、安全性が確保されているように見えます。素材に対しての検証は、今後行われていくとのことで、さまざまな専門家が注目しています。
ただし、CFRPは燃えると有害物質が放出する研究結果もあるため、取扱いには十分な注意が必要です。
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